Dungeon Crawl
最初は余興として学んでいた技能が、あとでずっと用いる重要な技能となることがよくある。
逆に、ずっと用いていて誇りとしていた技能を、使えない技能として捨て去る技能となることもある。
当初は弾の節約用として弱い敵にのみ振り回していた短剣。だが、エゴのついた短剣、強力な魔法の短剣、をいくつか拾う、そちらを用いているうちに、短剣の扱いがうまくなる。今では敵と戦う時は短剣を振りかざす。
そのホビット、彼はもともとはスリングと呼ばれる投石器を用いて戦っていた。
接近戦になってすら用いるほど、スリングの扱いに関してはもともとうまかった。
だが、彼はもうスリングを手にしてはいない。
もう、出てくる敵に対抗するにはそのような石ころではあまりにも力不足だったのだ。
いま、目の前にいる敵はオーガ。彼がスリングを振り回していた頃は巨大な棍棒で一撃で頭を叩き潰されかけた怪物。スリングで戦えるような敵ではない。
だが、オーガなど、もはや脅威とよべるものではない。
敵の攻撃をひらりと余裕でかわし、手にした短剣を振り回す、数回振り回すと、相手は動かなくなった。
いま、彼に向かって襲い掛かってくる怪物とはそういうレベルなのだ。
彼はスリングを捨てた。もう、彼がスリングを手にすることはないだろう。
【淵でもがく小さきものよ……】